■第一回 自己理解
あるがままの自分をどう発見しますか。
「あなたは何者ですか?」とたずねられたら、皆さんはどう答えますか。
あるいは、「あなたは何のために仕事をしているんですか?」という質問はどうでしょう。
きっと、すぐには答えられないと思います。
「自分は何者なのか?」ということは、できれば考えたくないものなんですね。それは、社会の中で生きていく上で、重要な意味を持つ問いかけだからです。
この質問に答えるためには、自分自身と向き合わなければなりません。
リストラによって長年勤めた会杜をやめた人たちが、職業安定所で得意分野をたずねられ、
「部長だったらできます。長年やってましたから。」と言ってしまうという話があります。
いかに[肩書]というものに頼って生きてきたかを、如実に表しているといえるでしょう。

会社を退職した後の、第二の人生を考えるためのセミナーというものがあります。
そこでは、「自分を変える」というテーマでプログラムが組まれます。
人は誰でも「変わりたい」と願っても、他人の力で変えられることに対しては絶対に反発するものです。
そのため多くの場合、「スクラップ&ビルド」の手法が使われます。
まず、その人の現在の地位や肩書を徹底的に取りはずす「スクラップ」の過程があります。
「OO株式会社≒○○部長」といった、その人がこれまで築き上げてきた肩書を次々にはずしていくのです。
最後には、たとえば「地域美化運動委員」といった、プライベートな活動の肩書をもはがします。
そうして、丸裸の状態(スクラップ)にするのです。
肩書へのこだわりの根底には、「組織への所属の欲求」があります。
所属することで自分の存在意義を確認したいという気持ちです。
だからこそ、自分を見つめ直すためには、まず丸裸になることが有効な手段になるわけです。
ところで発達心理学に「反動形成」という考え方があります。
「根が貧乏な人ほどおごりたがる≒小心者ほど偉そうにふるまう」といったように、コンプレックスの裏返しによって行動してしまう現象のことです。
「反動形成」の最たる例として、幕末の「岡田以蔵」という人物があげられます。
彼は幕末の混乱期、同郷の坂本龍馬やエリート武士の武市半平太の側にあって、佐幕派の重要人物を情け容赦なく惨殺した人物です。
当時は冷徹で残忍な暗殺者「人斬り以蔵」として非常に恐れられ、後の世でも殺人を嗜好する異常者として見られることが多かったようです。
しかし、最近の研究では、彼の別な面がクローズアップされています。
以蔵は下級武士の息子で、貧乏な牛活を強いられてきたために、大きな劣等感を抱えていました。
「人斬り」としての彼の姿は、そんな劣等感の極端な「反動形成」だったのではないか。
以蔵は異常者ではなく、ただ自分目身がわからなかっただけなのではないか。
実際、いったん捕らえられ牢獄に入れられると、以蔵は別人のように「死にたくない、助けてくれ!」と泣き叫んだといいます。
もしも彼が自分自身をしっかりと見つめ、コンプレックスを受け入れていたら、あれほど極端な行動に出ることはなかったのではないかといわれます。
「反動形成」には段階があります。
まず、ストレスが発生する。次にその嫌な気特ちを解消するために、「怒る≒落ち込む」「泣く」「おちゃらける」といった「ディフェンスーコントロール(自己防衛)」のための行動が現れます。そして最後に、「反動形成」の具体的な症状が出てくるのです。
「反動形成」には、極端な場合、人と会いたくないため一日中パジャマで過ごす「パジャマ症候詳」や「アルコール依存」、「薬物依存」なども含まれます。
一方、「反動形成」をバネにしているケースとして、「ボランティア活動」によってストレスを解消しているといった例もあります。
誰にでも組織や肩書に依存する心はありますし、コンプレックスもあるはずです。
大事なのは、自分自身では認めたくないそうした心と真正面から向き合うことなのです。
[スクラップ]の次には「ビルド」の過程が始まります。
裸になった自分に、これまでの肩書とは無縁の長所を一つ一つ積み上げていき、「新しい自分」に気づくプロセスです。
心理学者のアドラーは「白分が不完全であることを受け入れる勇気を持って、一歩踏み出すことが重要だ」といっています。
この『不完全な勇気』を持つためには、自分自身と対時し、「あるがままの自分」を受け入れなければなりません。そこから「人問カアップ」につながる旅は始まるのです。
「話を聴くことが他者理解の始まり」
第1回の「自己理解」に続き、今回は「他者理解」です。
自分を理解し、自分を受け入れたら、
今度は自分と違う他者に気がついて理解する段階です。




