■第三回 自己主張(自己表現)
自己を理解し、他者を理解したら次には他者に対して自分を主張(表現)する段階です。
ここでいう自己主張は、一方的に自分の意見を言い放つことではありません。あくまで、相手の気持ちや状況を考えながら自分を表現していくことです。
この自己表現はアサーション(Assertion)といわれています。
アサーションの考え方と技法は1950年代にアメリカで行動療法と呼ばれる心理療法の中で開発され、70年代にさらに人間関係の促進に活用されるようになりました。
その背景には「人権」や「差別」をめぐる社会的・文化的ムーブメントがありました。
アサーションの考え方は単に自己表現や対人関係のための治療法というだけではなく、広く人間の価値や平等に対する考え方、また差別など人権問題にかかわるときの有効な対応方法として生まれていきました。
現在では習慣や馴れ合いによって起こりがちな社会的失敗を予防するために、対人関係スキルのトレーニングにも活用されています。

●コミュニケーションのポイント
さてアサーションはコミュニケーションの手法として有効な手法です。アサーションを考える時、コミュニケーションのポイントが見えてきます。
コミュニケーションは送り手と受け手によって成り立ちます。
ところがひと頃までは、何をどう伝えるかといった送り手のスキルのみが重視されてきたといってよいでしょう。
「話し方教室」や「プレゼンテーションのしかた」の類のようなものです。
しかし現実には、送り手の主張が上手に表現されることと同様に、「受け手がどんな気持ちで受けとめているか」を考えながら伝えることが、コミュニケーションにおける重要なポイントになることはいうまでもありません。
このことは、簡単なことのようですが、気がついて実行するにはなかなか難しいことです。
人は、コミュニケーションの際に、自分の体験や知識の枠組みのなかで相手の話しを理解します(認知の枠組み)。
逆にいえばその枠組の中でしか相手の話しが理解できないということです。
さらにそこに気持ちや感情といった要素が加わると、送り手と受け手のギャップは想像以上に広がっているはずです。
上司と部下などというような関係ではなおさらです。
伝えたつもり、言ったつもりというミスはここに必然的に発生するのです。
相手と認知の枠組みが異なることは仕方がないことです。
だからこそ、自己表現や自己主張は難しいのです。
『聞きそこないは言い手のそそう』という盛田昭夫氏の言葉があります。
相手に話が伝わらなかったのは送り手側に非があるというわけです。
相手のことを考え、認知の枠組みをふまえてコミュニケーションをするにはここまでの覚悟が必要なのです。
具体的な例としては、その業界特有の専門用語があげられます。
パソコン関連では最近多くの人が実際体験しているのではないでしょうか。「ダイアログ」「テキスト」「モデム」…。
相手が当たり前のように使っている言葉がこちらは半分も分からずに、質問してもますます分からなくなったなどということはよくあることです。
その他にも医者や法律家、学者などのように、ひとつの世界に長く関わっている人ほど、自分が持つ枠組みを誰もが持っていると誤解しがちです。
営業の仕事はその大半がコミュニケーションといっても過言ではありません。
その営業マン研修の現場では、認知の枠組みをふまえたコミュニケーション能力を身につけるための方法として「小学校六年生に伝えるつもりで」説明するというトレーニングが行われたりしています。
●相手も自分も大切にした自己主張
日本人は言葉にして伝えることが苦手だといわれます。
「オレの目を見ろ」や「オマエだったら分かってくれるだろう」式のコミュニケーションは相手依存型とも甘えの構造ともいわれます。
一方、多民族国家であるアメリカなどでは、はっきり言葉にして伝えないとそもそもコミュニケーションが成り立ちません。
ディズニーランドの運営はよくサービス業の耳目をひくところですが、そのマニュアルには大いに学ぶところがあります。
掃除ひとつにしても日本では「きれいにしよう」とあれば充分なところが、「明日の朝いちばんに入ってきたゲストの赤ちやんがどこでハイハイしても大丈夫なように」と具体的な言葉に落とし込まれています。
習慣や生活環境が違えば、「きれい」の度合いもひとり一人違います。
従業員が等しく共通の理解ができるようにとの認識からなのです。
さて、自分の考えを言葉に出して伝えるということは、実際難しいことで、勇気がいることでもあります。
とくにありのままの自分の感情を伝えることに慣れていない人、苦手な人は多いでしょう。
相手の発言や行為に対して自分がどんな風に感じたか、不快、怒り、屈辱といった感情はもちろん、喜びや感動を伝えることでも改めて行おうとすると気まずいものがあるのが正直なところではないでしょうか。
しかし、自分も素直にいう、そして同様に相手も今自分がいったことに対してどう感じたかを話しやすい関係をつくっていくことは、時にはきまずいことがあっても、表面的なコミュニケーションを延々と続けるより、よほど実りが多い生産的な関係を築けるのではないでしょうか。
逆に言葉にしないで黙してしまうと、そのことがやがて怒りやストレスとなって、軽い時には愚痴、ひどくなると相手への攻撃のエネルギーとなってしまうことがあります。
あら探しや相手を追いつめたり、被害妄想に陥るなど「理解」ではなく、非生産的な繰り返し(心理学的には「加害者のゲーム」といわれる状態)になってしまうのです。
こうなっては自分自身も他人も傷つけてしまう状態です。
アサーティブな自己表現は、こういった状況を回避し、相手も自分も大切にする方法です。
アサーティブな自己表現をすることで相互理解へ近づきます。
前号で話した相手に共感して受け入れる積極的な傾聴(Active Listening)、そしてアサーティブな自己表現を相互に繰り返し、自他尊重のうえ自分も相手もアサーティブになることが大切です。
[回避できない人間関係]
『人間関係を知る4つのステップ』というテーマで進めてきた人間カアップセミナーも今回が最終回、「相互理解」の段となりました。




